ソフトバンクがどうやってパソコンソフト市場のシェアを奪ったのか
いまでこそ、ソフトバンクは知らない人はいない大企業となっています。
でもパソコンが一般に普及し始めた頃はその名の通り、ソフトバンクはパソコンソフトの卸の一つという立場でした。しかも後から参入してきた卸です。
振り返ってみると、今ソフトバンクは大企業になっていますが、その理由が納得できる商売を昔からやっていたことが分かります。
当時家電量販店のパソコン売り場で、パソコンソフトの仕入を行っていた私が、その一部をご紹介します。
この記事を読むと、ソフトバンクが昔から、ソフトの卸という立場でも革新的な市場開拓方法を行っていたことがわかります。価格の価値ではなく、他の価値を提供することで市場シェアを高めていったのです。
Contents
中小企業診断士の視点:昔から革新的、ソフトバンクの市場開拓方法
記事の内容
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本記事は私の体験をもとに書いています。
当時のパソコン市場の状況(1980年代半ばの話です)
①パソコンの機種ごとにソフトがあった ②パソコンソフト卸はほぼ1社が独占 |
①パソコンの機種ごとにソフトがあった
- パソコンの機種ごとに使えるソフトが分かれていた
おじさん世代でないとわからないかもしれませんが、昔はパソコンメーカーがそれぞれ独自のパソコンを作って販売していました。
パソコンソフトはメーカーごと、機種ごとに販売されていて、他の機種では動きませんでした。
例えば当時の売れ筋はNECのパソコンでしたが、NECでもPC6000シリーズ、PC8000シリーズ、PC9800シリーズがあり、それぞれシリーズ専用のパソコンソフトがありました。シリーズの垣根を越えての互換性はなかったのです。
例えば『三国志』というパソコンゲームがありますが、PC9800用の『三国志』はPC8800シリーズのパソコンでは動かない、という具合です。
②パソコンソフト卸はほぼ1社が独占
- 私のいた店ではほぼ一社が独占していました
パソコンソフトの卸はシミュレーションゲームの一部など、特定のメーカー以外はほぼ一社が独占していました。というより、他にはなかったのかもしれません。
私のいた店ですが、家電量販チェーン店で秋葉原だけでも当時で7店舗あり、他の店も同じ卸から仕入れていたのです。
私が入社した以前から、その特定の一社から仕入れたソフトがパソコンソフト売り場の大半を占めていたようです。
パソコンソフトの仕入れ方法
①問屋がやること ②販売店がやること |
①問屋がやること
- 問屋がやることはこれです
パソコンソフト問屋にも担当セールスがいて、担当セールスは以下のことを行います。
- 店に来てパソコンソフト売り場を確認
- 欠品(売れた商品)を確認
- 新商品などを売り場担当者に紹介
- その場で注文商品を注文伝票に記入
- 売り場担当者に注文伝票を見せ、了解を得る
- 後日納品
②販売店がやること
- 販売店がやる作業も多くあります
販売店はソフトが納品されると以下のことを行います。
- ソフト問屋からソフトが納品されると検品する。(数が多いため大きな段ボール箱で納品される) 担当者一人で検品することが多い。
- 担当者はラベラーで価格を打ち商品に貼る
- 商品を棚に並べる
という流れになります。
下はラベラーの写真です。
でも、私がいた店では多量に納品されるため、結構時間を取られる作業となっていました。
ソフトバンクの革新的方法
①ソフトバンクがやること ②販売店がやること |
①ソフトバンクがやること
- ソフトバンクは従来の卸がやらなかったことを行っています
- 店に来てパソコンソフト売り場を確認
- 欠品(売れた商品)を確認
- 新商品などを売り場担当者に紹介
- その場で注文商品を注文伝票に記入
- 売り場担当者に注文伝票を見せ、了解を得る
- 後日納品
ここまでは同じです。
ここからが違います。
店舗にソフトが納品されます
- 納品後、ソフトバンクの担当者が売り場にきます
- 検品作業を手伝います
- ソフトバンクの担当者がラベラーで価格を打ち商品に貼ります
- ソフトバンクの担当者が商品を棚に並べます
- 売り場担当者に棚を確認してもらいます
ということになります。売り場担当者が従来行ってきた仕事をしてくれるのです。
売り場担当者はとても助かることになります。売り場担当者は他にもやることが山のようにあり、従来かなり時間をかけて行っていたパソコンソフトの補充作業をやらなくて済むようになるからです。
②販売店がやること
- ソフトバンクから仕入れることによって以下のようになり、仕事が減りました。
- ソフトバンクからソフトが納品されます。(数が多いため大きな段ボール箱で納品される)
- ソフトバンクの担当者が来るまで、しばらく放置。
- 納品翌日くらいにソフトバンク担当者が来る
- ソフトバンク担当者に手伝ってもらい検品
- ソフトバンク担当者がラベラーで価格を打ち商品に貼る
- ソフトバンク担当者が商品を棚に並べる
という流れになります。
赤字の部分は従来店舗側で行っていましたが、ソフトバンク担当者が行ってくれるようになったのです。
ソフトバンクの担当者が納品後の店舗作業の代行をするような感じになっています。
まとめ
当時のパソコン市場の状況
パソコンの機種ごとにソフトが分かれていました。機種ごとに互換性はなかったのです。
私のいた店ではほぼ一社が独占していました
ソフトバンクの革新的方法
ソフトバンクはリテールサポートを行っていました。
このため、ソフトバンクから仕入れることによって販売店の仕事が減りました。 |
中小企業診断士の視点
ソフトバンクの行っていたやり方は従来の問屋・卸にはなかった革新的なやり方です。それまでは卸や問屋は注文を取るときには店に来ますが、納品後にくることはありませんでした。
ソフトバンクは納品後にも店にきて、店舗の担当者に代わって作業をしてくれたのです。
中小企業診断士的に言えば、リテールサポートを行っていたことになります。
当時ソフトバンクの担当者が市場を広げるために、自分で考えて実行していたのか、会社の指示でやっていたのかはわかりませんが、当時の商慣行からすれば革新的なことだったと考えます。
店側(売り場担当者)からすればありがたいことなので、ソフトバンクへの発注量は次第に増加していきました。
店舗側の担当者だった私が言うのだから間違いはありません。
このやり方は、私のいた店舗だけでなく、他の店舗に対しても行っていただろうことは想像できます。
ソフトバンクはこのようなやり方で、パソコンソフトの市場シェアを高めていったと推察できます。